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日本機械学会〔No.99ー37〕第12回バイオエンジニアリング講演会 講演論文('00.1.11,12 金沢市)

 

皮膚の角層水分量と硬さの計測に関する研究

Research on the measurement of the water content of the stratum corneum and the skin hardness

○正 小山浩幸(芝浦工大)  正 米田隆志(芝浦工大)   舟久保熙康(芝浦工大)
  田上八朗(東北大・医)  高橋元次(資生堂)   矢内基裕(資生堂)

Hiroyuki Koyama, Takashi Komeda, Hiroyasu Funakubo, Shibaura Institute of Technology, 307 Fukasaku, Omiya, Saitama
Hatiro Tagami, Tohoku University
Motoji Takahashi, Motohiro Yanai, Shiseido Research Center

Key words: Water content of the stratum corneum, Skin hardness, Atopic dermatitis

1.緒言

Koyama 2000 Figure 1皮膚の力学的特性は,一般に肌の健康状態,個人差,性別,年齢差などによって大きく異なることが良く知られている.皮膚の構造で最表層の角層は外からの病原体等が体内に侵入しないバリアの役目を果たしているだけでなく,保水機能を有している.乾燥した皮膚は角層に含まれる水分量に起因しているとの報告1)があるが,角層の力学的特性に関する報告は少なく,特にアトピー性皮膚炎患者の角層に関してはほとんどない.

本研究は,角層の水分含有量の違いよる力学的特性として,角層水分含有量を変化させた角層水和実験と天然保湿因子除去実験による水分量と皮膚硬さの関係,及び健常者とアトピー性皮膚炎患者の水分量と皮膚硬さの比較について検討した.

2.測定装置

角層水分量の測定にはCorneometer CM820を使用した.皮膚硬さの測定には,Fig.1に示すAXIOM社製触覚センサシステムを使用し.触覚センサシステムの測定部は,触覚センサ,荷重センサ,及び変位センサを搭載している.プローブの動作はセンサ部が57kHzで振動しながら皮膚に押し込み,押し込み荷重,プローブの変位,及び物質の音響インピーダンスの違いから求めた周波数変化量の計測を行う.押し込み深さは最大10[mm]まで設定することができる.

3.角層水和実験

角層の水分含有量を変化させる角層水和実験として,被験部位を前腕内側として実験を行った.実験方法は,被験部位に塗布する試料として保湿剤10%水溶液と精製水を用いた.測定は,@被験部位を石鹸で洗浄する.A恒温室(23℃、30%RH)に入室,30分間安静にする.B試料を塗布する前の被験部位を測定する.C各試料をろ紙に湿らせて被験部位に塗布し5分間安静にする.D被験部位からろ紙をはがし,水分量と皮膚硬さを測定した.皮膚硬さは押し込み荷重を一定とした場合の周波数変化量の経時変化として評価した.

Koyama 2000 Figure 2

水分量の経時変化をFig.2に,周波数変化量の経時変化をFig.3に示す.図は5回の測定結果の平均値と標準偏差である.水分量は各試料とも測定開始から4分経過まで減少し,その後ほぼ一定を保っている.周波数変化量の図は縦紬の一値が大きいほど皮膚が柔らかいことを示す.精製水は塗布後30秒に値が増加した後,徐々に減少して塗布前の値より若干高い値で安定し,水分量と同様の経時変化を示し.保湿剤では塗布後30秒に値の変化はなく徐々に減少して,5分経過後には塗布前の値より高い値で安定し,保湿剤の効果が認められた.保湿剤は皮膚が本来持つ天然保湿因子の役割を果たし皮膚に柔軟性を与え,時間が経過しても皮膚は水分を失うことなく潤い,柔軟性を保つことができるためと考えられる.

Koyama 2000 Figure 3

4.天然保湿因子(NMF)除去実験

角層水和実験で天然保湿因子と結びついた水分が皮膚硬さに大きく影響を与えたため,天然保湿因子を除去した場合の周波数変化量の測定を行った.測定手順は@〜Bまでは同様であるが,C直径40[mm]の筒を被験部位に押し当て,その中にアセトンを浸し2分間ガラス棒で軽く皮膚を撫でるように擦る.アセトンを捨てた後に水を筒の中に浸し1分間ガラス棒で擦り,天然保湿因子を抽出する.D被験部位の水を拭き取り1分毎に10分間測定に変更して実験を行った.Fig.4は天然保湿因子除去後の周波数変化量の経時変化を示す.アセトンを除去するのに精製水を使用するため,測定開始後数分は皮膚硬さに精製水の影響が出ているため,測定開始後5分後から天然保湿因子が除去された皮膚硬さとして評価した.除去前の周波数変化量の値に対して,除去後の周波数変化量の値が低くなり,天然保湿因子を除去することによって皮膚が硬くなっていることが認められた.

Koyama 2000 Figure 4

5.水分量と皮膚硬さの関係

皮膚硬さとして求めた周波数変化量と水分量の関係をFig.5に示す.精製水,保湿剤,天然保湿因子除去の条件とも角層の水分含有量が多いと周波数変化量が高くなり皮膚が柔らかくなることが確認できた.また,皮膚の水分含有量と周波数変化量は相関があり,保湿剤の効果を明確に表すことができた.

Koyama 2000 Figure 5

6.アトピー性皮膚炎患者の角層水分量と皮膚硬さ

アトピー性皮膚炎患者の皮膚は湿疹性病変部以外に,乾燥状態の皮膚(乾皮症)が局在して観察されるだけでなく,すべすべした皮膚も観察されるなど皮膚の性状は一様ではない.これらの角層の水分含有量と硬さを求めるために,湿疹性病変部以外で健常者と同じ測定部位付近において実験を行った.Fig.6に保湿剤を塗布した場合の水分含有量の経時変化を,Fig.7に皮膚硬さとして求めた周波数変化量の経時変化を示す.水分含有量では,健常者は1時間経過後も角層に水分を含有しているに比べ,アトピー性皮膚炎患者は水分量が少なく実験前の値に戻る時間が極めて短くなっている.保湿剤を塗布した場合では,健常者は1時間経過後でも実験前の値より皮膚は柔らかく,保湿剤の効果が認められる.アトピー性皮膚炎患者は保湿剤の効果が短い時間しかない.

Koyama 2000 Figure 6

Koyama 2000 Figure 7

これはFig.8の周波数変化量と水分量の関係からもアトピー性皮膚炎患者は角層の保水性が低いことが明らかである.

Koyama 2000 Figure 8

7.結言

角層の水分含有量の違いよる力学的特性として,角層水分含有量を変化させた場合の皮膚硬さを市販の触覚センサシステムにより測定した.角層水和実験では保湿剤の効果が認められた.天然保湿因子除去実験による水分量と皮膚硬さの関係では,天然保湿因子を除去することによって皮膚が硬くなっていて,皮膚の柔軟性には天然保湿因子の役割が重要であることがわかった.健常者とアトピー性皮膚炎患者の水分量と皮膚硬さの比較では,保湿剤の効果があまりなく,角層の保水性も低いことが碓認できた.なお,測定に用いた触覚センサシステムは,皮膚の角層の挙動を見ることができると考えられる.

〔参考文献〕
田上他:皮膚科診療プラクティス・スキンケアの実際,文京堂,1999.

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