人と福祉を支える技術フォーラム99論文集(1999.2.27)
皮膚の硬さ測定に関する研究
Study on measurement of skin hardness
○近藤達也、小山浩幸、米田隆志、内田千城、宮城政雄、舟久保熙康、
芝浦工業大学ライフサポート工学研究センター
1.はじめに
皮膚の力学的特性は、一般に肌の健康状態、個人差、性別、年齢差などによって大きく異なることが良く知られており、皮膚の生理的現象の把握や化粧品の効能効果の検証等の研究を行ううえで重要なテーマの一つである。その評価法としては、触診行為が簡便で有効な手段であり今日でもさかんに実施されているが、定量的データを蓄積することが困難であることから、それに代わる計測機器の開発が各方面から望まれている。
しかし、皮膚の構造が複合柔軟組織であり、また測定部位を常に一定条件に保持することが困難なことから、簡便な測定操作で精度良く評価のできる測定機器の開発はほとんどされていない。
一般に生体の硬さを測定する場合、比較的均一な組織を切り離して測定するか、臓器そのものの力学特性を測定している。生体組織の強度計算には、引張、圧縮、曲げ試験など材料試験機を用いるが、その多くは破壊強度である。皮膚の場合にも、動物から切り取った皮膚を引張試験機により計測された例も報告されているが、生体から切り取った時点で特性が異なっている可能性があるとともに、人体にこの方法を応用するのは不可能である。
従って、皮膚硬さの測定が容易に行われ、硬さに関する基礎データが得られることができれば、医療や美容の開発面においてさまざまな形に適用可能となる。
本研究では、AXIOM社製の触覚センサシステム「Venustron」を用いて、皮膚硬さのサンプルデータの収集を行い、被験部位の状態と皮膚硬さとの関係を求めることにより。皮膚硬さと年齢・性別等の間における定量的な関係を見出すことを目的とする。
2.皮膚硬さ測定システム
触覚センサシステムのフローブ図をFig.
1に示す。測定装置本体は触覚センサ、圧力センサ、変位センサの3つのセンサを搭載し、それらのセンサ信号を同時計測することによって硬さを測定する。動作はFig.
2に示すように、センサ部がモータ駆動により、57[kHz]で振動しながら指定された深さAまで押し当てられ、さらに、一定速度で元の位置に戻される過程において、荷重、変位、周波数変化の計測を同時に行う。押し込み深さは最大10[mm]まで設定することができる。
3.角質水和実験
(1)実験目的
皮膚硬さは角質層の水分量によって変化する事は知られている。そこで、角質層の水分量が皮膚硬さにどの程度影響を及ぼしているか確認するために実験を行った。
(2)実験方法
- 試料A(水+アルコール+保湿剤)
- 試料B(水+アルコール)
- 水

- 前腕内側の皮膚を測定する。
- 被験部位を石鹸で洗浄する。
- 恒温室(23℃、30%RH)に入室、30分間安静にする。
- 試料を塗布する前の被験部位を測定する。
- 各試料(試料A、試料B、水)をろ紙に湿らせ、被験部位に塗布し、5分間安静にする。
- 被験部位からろ紙をはがし、3分後までは30秒毎、以降は4,5,7,9,12,15分毎に測定を行った。
(3)実験結果
Fig. 3には塗布試料が試料A、押し込み荷重を一定(14[gf])にした時の塗布する前の皮膚硬さと塗布後の皮膚硬さの経時的変化を示し、Fig.
4には塗布試料が試料A、押し込み深さを一定(2.5[mm])にした時の塗布する前の皮膚硬さと塗布後の皮膚硬さの経時的変化を示す。皮膚硬さを評価する場合、Fig.
3のように押し込み荷重を一定とするか、Fig. 4のように押し込み深さを一定とするか検討した。Fig.
3では、試料塗布2分後あたりまで徐々に数値が下がり、その後安定している。これに対し、Fig.
4では、試料塗布後数値は変化することなく、15分間硬さの変化は見られなかった。この結果、荷重を一定にした場合、試料Aの微妙な皮膚硬さの経時的変化がよく表れており、以後は荷重を一定にして皮膚硬さを評価していくこととした。
Fig. 5には各試料を塗布する前の角層水分量と試料塗布後の角層水分量の経時的変化を示したグラフ、Fig.
6には各試料を塗布する前の皮膚硬さと試料塗布後の皮膚硬さの経時的変化を示す。
角層水和実験の結果、試料A、B、水とも皮膚硬さと角層水分量は相関があることが確かめられた。角層水分量を比較すると、数値は塗布直後がもっとも高く、塗布30秒後には大きく値が下がり、その後徐々に減少して行き、5分後にはほぼ安定する。試料A、B、水とも同様の傾向を示した。なお、試料Aに関しては、保湿剤によって他の2試料より高い数値で安定することがわかった。
周波数変化量を比較すると、試料B,水は塗布30秒後に値が大きく下がり、その後徐々に減少して行き、塗布前の値より若干高い数値で安定するという、角層水分量と同様の経時的変化を示したのに対し、試料Aの周波数変化量では塗布30秒後に値が大きく下がることなく、徐々に減少して行き塗布5分後には塗布前の値よりはるかに高い数値で安定した。これは試料Aのみに含まれている保温剤が影響を与えていると考えられる。保湿剤は皮膚が本来持つ天然保湿因子の役割を果たし、皮膚にある水分と結びつくことにより皮膚に柔軟性を与え、時間が経過しても皮膚は水分を失うことなく潤い、柔軟性を保つことができるためと考えられる。
4.天然保湿因子除去実験
(1) 実験目的
角層水和実験で、天然保湿因子と結びついた水分が皮膚硬さに大きく影響を与えている事がわかった。そこで、この天然保湿因子を除去した場合の皮膚硬さを測定を行った。
(2)実験方法
- 前腕内側の皮膚を測定する。
- 被験部位を石鹸で洗浄する。
- 恒温室(23℃、30%RH)に入室、30分間安静にする。
- 安静後の被験部位を測定する。
- 直径40[mm]の筒を被験部位に押し当て、その中に脱水剤を浸し、2分間ガラス棒で軽く皮膚を撫でるように擦る。次に脱水剤を捨て、今度は水を筒の中に浸し、1分間ガラス棒で擦る。
- 被験部位の水を拭き取り、1分毎に10分間測定を行う。
(3)実験結果
Fig. 7には天然保湿因子を除去する前の皮膚硬さと除去後の皮膚硬さの経時的変化を示す。天然保湿因子除去実験では、脱水剤を除去するのに水を使用するため、測定後数分は皮膚硬さに水の影響が出た。角層水和実験で塗布試料として水を用いた際、約5分で水分は皮膚から蒸発する事がわかっており、今回の実験でも水を除去した後約5分までは測定前よりも柔らかい結果が出ている。つまり、測定開始約5分後付近からが、天然保湿因子が除去された皮膚硬さとなる。測定開始5分以降の値を見ると、除去前よりも多少硬い結果が出ている。しかし、除去前と除去後の硬さの変化は、角層水和実験で保湿剤を塗布した時のようにはっきりとした差はでなかった。
その原因として、冬期(1月)に実験を行った事が考えられる。恒温室で30分間安静にしても、その季節の特徴は消える事はなく、1月の入室後30分の水分量は22,3であったのに対し、夏期では値は33,4で10前後の水分量の差がある。冬期は非常に乾燥しているため、脱水剤で落せる天然保湿因子が元来少ないと思われ、除去前と除去後の値に差があまりでなかったと考えられる。
5.おわりに
被験部位の状態と皮膚硬さの関係を求めるため、角層水分量と皮膚硬さとの関係を実験的に求めた。その結果、皮膚硬さは角質水分量と密接に関係しており、水分を塗布すると柔らかくなる事が確認された。また、保湿剤を含んだ水分を塗布すると、時間が経過しても皮膚はその柔軟性を持続し続けることが求められた。それとは逆に、皮膚の天然保湿因子を除去すると、皮膚は硬くなり、皮膚硬さは角層水分量と水分と結びついた天然保湿因子との関係が大きいことが確かめられた。